地を覆う大きな傘。
中央に塔が一本建ち、それが機械の塊を支えている。
当然 真下にある集落には陽が当たらず、機械の隙間から漏れる「雨」に苛まれている。
人々は疑わない。
それが当たり前だったから。
何て事はない。
ただの「掟」なのだから。
あの傘は 泣いた 空を騙し屑の雨
街は盲目 誰も疑わぬ道化で
君はまた 唾を その傘に向けて吐いた
私は見ない 低持続音(ドローン)に乗せて流した
誰の声も聞かずに 彼は雨を掴み
私の手をとりあの塔へ
走るの
『いつか見ていた 絵本の空を』
約束にして とじ込んだ小さな声は
刹那 雨さえも引き裂いて
もう 悲しむ事も 忘れたまま
降り頻る雨と共に、二人は傘の塔へとたどり着いた。
閉ざされていた両開きの扉は、押せば呆気なく開き、二人を拒みはしない。
誰も入ろうとはしないのだ。
鍵などあってもなくても同じだろう。
その扉の向こうの、
崩れ出し 何処へ行く 螺旋階段の先は
黒く煤けて 滴る雨の残響音
泣きそうな 私を そっと慰める様に
君は笑って また手を繋ぎ 走るの
白い影に追われて 逃げた先に檻の群
理由を探す暇も無く
気も無く
震えた手には 君の声が
私はそんな背中を ただ見守るの
闇に溶けた 歯車は笑う
ホラ 微かに風が 頬を撫でる
「風が、流れてるわ」
女の子は言った。
男の子は小さく相槌を打った。
足を止める事はなかった。
とても遠くまで来た様な、或いはまだ走り始めて間もない様な。
絶望的に小さな二人を、誰が見つける事も無かった。
誰が見つける事も無かった。
誰が見つける事も無かった。
誰が見つける事も無かった。
誰が見つける事も無かった。
白い影はもう追ってこなくて とても悲しそうに消えた
錆びた匂いも煤けた黒さえも やがて色を淡く変え
何処からか声が聞こえた様な 気がした様な 忘れた様な
螺旋階段の突き当たりには とても小さな扉が
埃を纏い待っていた
「開けるよ」
「うん」
そこには 何もかもがある様に見えた
色とりどりに咲いた花 深い青空
気付けば私は泣いていた もう 何もいらないわ
大切なこの絵本の空を
在るべき場所に返した 忘れない様に
君がくれた 拙い花束を
笑いながら そっと肩を寄せた
世界の最後に傘を差す
ずっとこんな世界ならば よかったのに
悲しくないわ 君の側で…
花の咲いたその傘の上には
とても幸せそうな顔で
小さく眠る二人がいた