摘めといふから
ばらをつんでわたしたら、
無心でそれをめちやめちやに
もぎくだいてゐるのです
それで、おこつたら
おどろいた目を見ひらいて、
そのこなごなの花びらを
そつとわたしの手にのせた
(勸君莫惜金縷衣)
綾にしき何をか惜しむ
(勸君須惜少年時)
惜しめただ君若き日を
(花開堪折直須折)
いざや折れ花よかりせば
(莫待無花空折枝)
ためらわば折りて花なし
それはそれは
ひとひらの花びらに書かれた
あの緑の夏の思ひ出だけど
恋ふるねがひは
あだにして、それは
いまはいまは
ただ疑ひに枯れゆくばかり
しぐれよ、つげておくれ
あの人にわたしは
今夜もねむらないでゐた と
しぐれよ
あの人に…
とめてとまらぬ
わが眼や水は流れけり
君を葬(ほふ)りしその水は
手折ればくるし、花ちりぬ
消なば消ぬべき
夏の夜の夢さめざるに
この不実なる砂原に
ますます深く迷うばかり
(此夜江中月)
月出でしほの江に浮び
(流光花上春)
光ながれて花にほひ
(擧條摘香花)
枝をたわめて薔薇(さうび)をつめば
(言是歡気息)
うれしき人が息の香ぞする
それはそれは
ひとひらの花びらに書かれた
あの緑の夏の思ひ出だけど
若き命は束の間に散りて
いまはいまは
君は いま世にあらざるか
しぐれよ、つげておくれ
あの人にわたしは
今夜もねむらないでゐた と
しぐれよ
あの人に…