バリーゾールの息子は一人っ子
裕福な家庭の跡取りで
誰もが羨む美少年
だけど 彼には問題があった
人形遊びが大好きで
女の子の服ばかりを着る
母の部屋から道具を盗み
こっそり化粧をしたりもする
周りの誰しもがそんな彼を遠ざけた
だから彼はいつだって
ひとりぼっち
バリーゾールの娘は一人っ子
千年一度の天才児
六歳で大学に入り
人の心について研究する
止まらない犯罪や戦争
人はどうして憎みあうか
それが少しでも判ればと
彼女は研究を続けた
そして彼女は気づいた
止まらぬ『悪意』の原因を
『それはこの世界にはない』と
知ってしまった
バリゾール―の息子は一人っ子
彼にもついに恋人ができた
勤めに来た同い年のメイド
まるで人形のように可愛い
「君の服を着させて欲しい」
ある日彼は彼女に頼んだ
彼女は酷くうろたえながら
「気持ち悪い」それだけ答えた
バリーゾールの娘は一人っ子
彼女も『悪意』に犯され始めた
何故か止まらぬ殺人衝動
彼女は同僚に相談した
並行世界の研究者
男は彼女にこう答えた
「『もう一人の自分』を消せば
君の『悪意』も消せるかもしれない」
扉の外から怒鳴り声
彼は部屋の隅で怯えてた
室内に転がった人形
手足はバラバラで温かい
彼の目には見えていた
鏡の中の別世界
自分にそっくりな女が
手を差し伸べた
世界が「悪意」に呑まれた時
箱舟は宇宙へ飛び出した
七十二人の乗組員
その中には双子もいたという
『自分自身』を殺す直前
彼女は真実に気づいた
これはあの男が仕組んだ
巧みな罠であるということを
私がこの手を下す時
それこそが『悪意』への入口
堕ちた私の代わりに奴が
箱舟に乗るつもりだったのだろう
バリーソールの子供は一人っ子
だけど今はもう二人っ子
人の心に詳しい姉と
人の身体に詳しい弟
箱舟は黒い海を進む
新たな楽園を目指して
二人の研究はいつの日か
新たな人類を創るだろう