「そーぉっと、そーぉっとよ」って、あの子は言っていたんだ。
「そーぉっと、そーぉっとよ、両親を起こしちゃったらまずいから」
「あっちに隠れましょうよ、あそこなら誰からもわたしたちのこと見られないし、誰からも気づかれないから、ね」
(いつもと)違った、違った、そんなあの子だった。
その時は僕をみつけるなり、こう言ったんだ、「今夜は、あなたが欲しいの」って。
「お家で待ってるから」。でも、僕にはその意味が分からなかった。
僕にはその意味が分からなかった。
その子の部屋の中には、そこには
張り詰めた何かの影があったけど、それがなんだったかは、分からかったよ
彼女が僕を抱きついてくる、僕は自問する、これは一体どうしたらいいんだと。
あの子は僕に言った、「自分がイケてるって思った子を家に連れ込むのよ」
「誰からも気がつかれないし、誰からもわたしたちのこと見られないから」。
そーぉっと、そーぉっとだが、確かに何かがいる?
家の中で動き回って、確実にこっちに来る誰かがいる。
あの子は、「このままここにいてね」って言う、そして不思議な笑みをたたえた後で、
「わたしのことを抱いていいのよ、そうしたいならね」。
おかしなことに、おかしなことに、あの子は動じなかった、
むしろ、微笑んですらいた、部屋に入ってきて、僕たちに近づいてきたヤツに。
あの子に怒鳴るそいつに向かって、言ったんだ、
「あなたは一体何してるの、あなたは一体何してるの」と。
僕はといえば、その部屋の中で、まるでそこにいないかのような存在だった。
彼女は彼に言ったんだ、「あなたが、そうしたいって言ったのよね」って。
「でも、そんなことできるって思ってなかったわよね、あたしだっておなじだもの」
「ねえ、愛するあなた、間違ったのはあなたなのよ、間違っていたのはあなたなのよ」
静かに静かに、そこから僕は立ち去りました。
このお話で、ぼくの知ってるのはここまでです。
二度と振り返ることはありません
僕を引き止める人は誰もいなかったし、
それ以来、思い出すこともありません。