ある朝 目を覚ますとそこは
見慣れたベッドの上…じゃなくて
私は鉄板の上に横たわるたいやきでした
何故かな 昨晩はたしか
いつも通り部屋で寝たよね
そういえば 寝る前に食べ残した
たいやきの呪いなのかしら?
とりあえず店のおじさんと
喧嘩して 海に飛び込んだけど
そこは海じゃなくて お城の庭園の小さな池の中でした
月明かりが 照らす窓辺の王子様
水面にうつる横顔
ココロざわめく池の中で私
鯉に 落ちました
だけど 今の私には 伝えられない
だって 彼のそばにゆく足も
言の葉もない
ねぇ、お月さま お願い 魔法を解いて
すぐに 愛を届けに行きたい
あの人のもとへ
星空に願うの
今時のお月様はとても
話のわかる ナイスガイで
月夜の間だけ 元の姿に
私を戻してくれました
月明かりの下で 私と王子様
奇跡のような瞬間
鼓動高鳴る 大地の上ふたり
めぐり会いました
だけど今の私には 伝えられない
だって 本当はたいやきだって
バレたら どうしよう
ねぇ、お月さま お願い 勇気をください
再度 夜空を見上げてもただ
風が頬を叩くだけ
お月さましらんぷり
ある朝 目を覚ますとそこは
見慣れた部屋のベッドの上
そういえば 夢の中の王子様は
あなたにうりふたつ
ようやく気づいたの切ない想いに
いますぐ届けたいよ
ずっと誤魔化していた気持ちを私
走り出したの
そうさ 今の私には 伝えられるよ
だって 君のそばにゆく足も
言の葉も ある
ねぇ、お月さま 見ていてね 勇気を出すよ
今、大通りを抜けて 会いにゆく あなたのもとへ
私の王子様
商店街を走り抜けてゆく
私のうしろ姿見届けて
たいやき屋の店のおじさんは
満足げに小さく頷いた